癌幹細胞抑制物質の探索
癌幹細胞(Cancer stem
cells:
CSCs)は,癌細胞のうち多分化能をもつ幹細胞の性質をもった細胞で,腫瘍組織中に少量存在します。自己複製能と造腫瘍能を有し,正常組織中に移入する
と元の腫瘍組織と同様の腫瘍を形成する能力を持っています。既存の抗癌剤が効かないため,癌の転移や再発の主要な原因と考えられます。現在,CSCsを排
除する治療法につながる研究が多く行われていますが,今のところ研究段階であり,有効な薬は存在しません。本研究では,横浜市立大学医学部との共同研究として,CSCsに効く化合物の探索を行いました。
横浜市立大学医学部の梁明秀教授の研究室では,iPS技術を用いて癌幹細胞の特性を持つ培養細胞ラインiCSCL-10の確立に成功しました(Nishi et al. 2014
Oncogene, 33, 643–652; Nishi et al. 2014 Oncotarget, 5,
8665–8680)。この細胞の細胞増殖および自己複製能に対する阻害活性を指標に,トチュウという植物の葉に含まれる抗iCSCL-10活性物質を探
索したところ,これまでに天然物として知られていなかった構造を持った化合物の同定に成功しました。Eucommicin
Aと命名したこの化合物はクロロゲン酸が二重結合部分で二量体化し,シクロブタン構造を形成したものでした。Eucommicin
Aは乳腺癌細胞と比較して癌幹細胞により強い増殖抑制作用を示し,また,tumor sphere formation
assayという癌幹細胞の自己複製能を見る試験においても阻害効果を示しました。一方,クロロゲン酸にはこれらの効果が検出されず,シクロブタン構造の
形成が活性発現に必須であると考えられました。
Eucommicin A, a β-truxinate lignan from Eucommia ulmoides, is a
selective inhibitor of cancer stem cells. Fujiwara, A., Nishi, M.,
Yoshida, S., Hasegawa, M., Yasuma, C., Ryo, A., Suzuki, Y.,
Phytochemistry 122: 139-145 (2016)