ゴール組織の性状解析研究

ゴールは昆虫が住まい兼食料として植物に作らせた組織です。居住空間であり,食料でもあるというだけでも,昆虫は凄い能力を獲得したことになりますが,そ こで生活している以上,それ以外にも昆虫が生活しやすい環境になるように,ゴール組織の性状を調整している可能性が考えられます。
昆 虫が食害を与えると,一般的に植物は抵抗性を示します。その代表的な反応が揮発性物質の生産です。ハルニレハフクロフシで生産される揮発性物質を解析した ところ,ハルニレの葉ではペリレン,ヘキセニルブタノエートなどの揮発性物質が放出されていますが,ゴールからは殆ど出ていないことが分かりました。ま た,揮発性物質の生産には植物ホルモンであるジャスモン酸(JA)が関わっていることが一般的に知られており,実際,ハルニレの葉にJAを処理すると,上 記の揮発性物質の放出量が増えますが,ゴール組織にJAを処理しても,全く変わらず殆ど放出されませんでした。JAによって発現量が増える遺伝子の発現を 解析したところ,葉では増えるのに対して,ゴールでは増えずに低いレベルに保たれているという傾向が認められました。植物組織は昆虫の食害などで傷をうけ ると,JAをごく短時間で生産しますが,この反応は葉でもゴールでも同じように起こることが確認できました。したがって,ゴールはJAを作ることは出来る が,それに対する反応がおかしくなっている組織である可能性が考えられます。JAに対する応答性の低下は,RNA-seqによる網羅的な解析によっても確認されました。

Adaptive significance of gall formation for a gall-inducing aphids on Japanese elm trees. Takei, M., Yoshida, S., Kawai, T., Hasegawa, M., Suzuki, Y., J. Insect Physiol. 72: 43-51 (2015)

Transcriptomic characterization of gall tissue of Japanese elm tree (Ulmus davidiana var. japonica) induced by the aphid Tetraneura nigriabdominalis.Takei, M., Ito, S., Tanaka, K., Ishige, T., Suzuki, Y., Biosci. Biotechnol. Biochem. 81: 1069-1077 (2017)



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